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二章
「それで目的は人探し、か。本気で言うてるん?自分ら」
「僕たちは真面目です。だって、警察にいっても、こんな話、信じてもらえるとは思えなかったし。だったら、自分達で探すしかないじゃないですか」
言うとジャージ男は、ふうん、と気のなさそうな呟きを漏らす。
二ノ宮、と名乗ったジャージ男は、とりあえず話だけは聞いてやろうといって、ちゃっかり僕らの食事の席に混ざってしまった。
不法侵入の言葉にびびって、食事もせずにそうそうに帰り支度をしかけていた僕らに、まあ飯くらい食ってから帰れば、といいだしたのは二ノ宮自身だ。
図太いのか、ただ腹が減ってただけなのか。
茜さんと真理子ちゃんの二人が、かいがいしく二ノ宮の世話を焼いている接待状態で、ちょっと悔しい。
しかし二ノ宮は接待も何も意に介した様子もなく、ガンガン肉を食らう。
勝手にこんなことするのはダメとはじめに言った本人が、一番遠慮がないんじゃないかなあ。
それに、こんなことしてて、本当にいいんだろうか……。
今にも土地の所有者が現れて、警察を呼ばれたりしたら。
そう思うと、美味しい筈の焼肉が、いまいち味がしない。
ああ、いい肉なのに……。もったいない……。
こんな時に小心なばかりの自分が憎い。
みんなも、なんとなく小さくなってぼそぼそと食事をしているような有様だ。
二ノ宮ひとりが、悠々と焼肉を楽しんでいるように見えた。
「……ま、だいたいの話は、わかった。ほな、俺がここの土地の所有者に話つけて、許可もらえるようにしたろか?」
ひどくあっさりと言い出されて、全員がぽかんとした。
その僕たちを見渡した二ノ宮が、首を傾げる。
「なんや。人探ししたいんちゃうん?」
「い、いえ……勿論したいですけど……。許可なんか、貰えるんですか?」
「何か悪さするつもりでもなさそうやし。火の始末やら、ゴミの始末やら、きっちりしとったら、別にええんちゃう?とりあえず許可してもらえるかどうかは相手次第やけど」
「ここの所有者の方を知ってるんですか?」
「御近所さんやからな。ここらの大地主の爺さんや。話のわからん人でもないし。肉のパックのひとつでも持っていって、勝手に入ったことには、すんませんてきっちり頭下げたら、許してくれるやろ」
聞くなり、一色くんがクーラーボックスから、肉のパックをひとつ取り出した。
綺麗にさしのはいった、よいお肉である。
それを隣にいた茜さんに渡すと、茜さんはさらに隣にいた真理子ちゃんへと、順に渡していき、今泉くん、薬師寺くんを経て僕の手元に届いた。
君達、それなんの儀式なの……。
よくわからないままに、僕たちのひとつになった心の証のような肉のパックを二ノ宮へと差し出した。
御値段グラム1850円。
と、パックの表に貼られたシールに書いてあった。
その様子を見て、二ノ宮が軽く笑う。
「お前がリーダーか?」
「まあ、そんなようなものです……。一応、発起人なんで」
「ほな、行こか」
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