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その街の七夕祭りはちょっと有名だ。
全国区ではないものの、七夕になると近県からの大勢の客でにぎわう。
満天の星降るような夏の夜、星野良彦は、柴犬のタロと夜の散歩をしていた。
共働きの良彦の家では、タロの散歩は小学三年生の良彦の係だ。
笹が群生する小高い山の前を歩いていると、右手の山の方から、パチパチッと、微かな音が聴こえてきた。
良彦が足を止めると、タロが山に向かってキャンキャンと吠える。
焦げた臭いが漂ってくる。
良彦が目をこらすと、笹が燃えてパチパチと音を立てていた。
驚いた良彦が見ているうちにも、橙色の炎はじわじわと横に広がる。
「たいへんだ!」
大声を上げるとタロの首輪を引っ張り、良彦は街に向かって駆け出した。
明日の七夕祭りの準備で、街には大人がたくさんいるはずだ。
良彦は一目散に走った。
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