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8
良彦は市議会議員やゼネコン業者と共に、地元の笹山を見上げていた。
「いやぁ、広大な敷地ですねぇ……」
業者が嘆息する。
「この一帯がリゾートヴィラに生まれ変わる。想像しただけでワクワクするよ」
「でも先生、相当反対もあると思いますが……」
「大丈夫、僕に任せてください。この街を発展させるには、思い切った改革が必要なんです。雇用も生まれるし、誰も損しない!」
良彦の手腕で、地元は経済特区になり、百数十億円の費用は国庫負担にした。
一年半後工事が始まると、議員事務所に父親から電話が入った。
「良彦おまえ、約束が違うじゃないか……」
リゾート開発の件で帰省したときに父親から、開発はやめてくれと頼まれたいたのだ。
「良彦。笹山は潰さんていうとったよな」
「……ごめん。僕も最後まで反対したんだけど……僕にもいろいろあるんだよ……」
「まぁ男の仕事だ、あるだろう。ただな、工事が始まったとたん、笹の花が咲いたんだよ。花が」
「え? 花?……」
「ああ! 百二十年ぶりだそうだぞ」
「それはすごいね。けど、だから……?」
「バカもん! 良彦、知らんのか? あの花はなぁ——」
「ごめん父さん、打ち合わせだから、切るね」
「おい! 良彦——」
良彦は嘘をついて電話を切った。
父親との約束を反故にした後ろめたさと、説教が面倒だと思ったからだ。
開発に反対したのも嘘で、良彦は積極的に進めた。
愛人の響子は、幾らでもか金がかかる女だった。マンション、高級外車、年に数回の海外旅行。次は自分の店を持ちたいと言っている。
良彦は妻子も愛しているが、響子にも惚れていた。金の工面のためにはじめた仮想通貨でも、大損していた。
ゼネコンからはたっぷり、バックマージンを受け取っている。
今更後には引けなかった。
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