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憎しみの刃は、交渉の席にも振り下ろされました。
交渉時のテーブルに用意された飲み物。自身の国から持ち込んだ物であるにも関わらず、飲んだ自国の者が血を吐いて絶命したのです。
幸い、王族に被害はありませんでしたが、大騒ぎになりました。その中で不審な動きをした者を捕らえようとすると、その者は舌を噛み千切りました。
交渉は決裂──これ以上はないという酷い状況で。
のちに調べると、舌を噛み千切った者は、家系図を辿ると相手国の出身の者でした。後ろで操っていた者は、恐らく相手国の者です。
アルタイイルは己れの力不足に身悶えし、ベガセオーラは己れの情けなさに泣き暮らしました。
このままではいけない。このままでは全面戦争になってしまう。何とか食い止めないと、流される血は民の血です。
ふたりは、自国の自分の部屋で考えました。王と宰相たちとの話し合いの場でも、考えました。
そうしてその中で気付いたことは──自分自身がこの国で一番利用価値がある、という事実でした。
「お父様、お話があります」
「父上、ひとつ提案が」
跡取りたちが王に進言した時期は、国は違えどほぼ同じでした。
「私を、あちらの国にやってくださいませ」
「私は、あちらの国に参ります」
そう告げられた王たちは焦りました。争っている国へ、自国の大事な跡取りをやるわけにはいきません。
「馬鹿なことを申すな。そなたはあんな青二才に嫁ぐ気か。それに、彼奴らと縁戚になるなどとんでもない」
「お前はあんな娘を我が血筋に加えると言っておるのか。冗談ではない。そんなことをすれば我が国は内側から腐ってしまう」
王だけでなく、宰相たちも声高々に相手国を罵ります。遥か過去には血を同じくしていたというのに──……跡取りたちは胸が痛みました。
「いいえ、お父様。私は嫁ぐつもりはございません」
「父上、私はかの姫と結婚するわけではありませぬ」
跡取りたちの否定する言葉に、王や宰相たちは首を捻りました。
「ではどうするつもりだ」
「そうか。婚姻を結び、身内となって王どもの寝首を掻くのだな。それならば、一時と云えどあの汚れた血を受け入れるのも許してやる」
どうして人は国や環境が違うと、憎しみ合ってしまうのでしょう。
「お父様。私は、人質としてあちらに参ります」
「父上。私は、人質としてあちらに参ります」
ふたりの跡取りは、連絡を取り合ったわけでもなければ、相談したわけでもありません。けれど、示し合わせたように同じことを提案したのです。
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