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────……あるところに、ふたつの国がありました。ふたつの国の王は兄弟で、争うことなく平和に過ごしていました。
ふたつの国の間には草原が広がり、国境になっていましたが、見張りの兵が数人立っているだけでした。見張り自体も、第三国からの侵入を警戒しての見張りでした。
歴代の王たちはとても親密で、気さくなひとたちでした。自分の息子や娘を草原で遊ばせたり、相手国の王族と交流したりしていました。
王が亡くなり、代替わりをし、何年、何百年と平和に過ごしているうちに、安寧に胡座をかき、澱んで行くのはこの世の常です。始祖が血を同じくしていたことなど、すっかり過去の彼方に押しやられ、咎め合うようになりました。
ふたつの国の間の草原は、争いの場になってしまったのです。互いの国で採れる物資を送っていた国交は絶たれ、互いの使者は帰ってきませんでした。そして血に染まった衣類が送られてきました。使者に起きた惨状は明白でした。
目には目を──血には、血を……
負の連鎖は止まることを知らず、血の惨劇は幾度となく繰り返されました。
そんな状況の中、現状改善のための交渉の場で、運命の出逢いは訪れました。
ひとつの国の跡取り息子と、ひとつの国の跡取り娘。
出逢ったふたりは、惹かれ合ってしまいました。遥か昔ならともかく、今は憎み合っている国同士です。けれど、抑えようとしても溢れ出てしまうのが恋心。
ふたりは、自らと互いの立場を良く解っていました。手を携えていた時代もあったというのは、今や伝記にのみ遺る過去。ふたりが生まれる前から憎しみを募らせているのです。
現状をどうにかしなければならないと、王も宰相たちも理解しています。理解していても、根付いてしまった憎しみと、自分の国の方が優れているという思い込みとプライドとで、何度も交渉は決別しました。何度交渉の場を設けても、いかに自国の有利に進めるかを全面に出していては、交渉出来るものも出来ません。
ふたりは交渉の席でのみ、顔を合わせることが出来ました。そして隙を突いて、使用人伝いに互いに肖像画を交換しました。
手の平に収まるほどの、小さな小さな肖像画です。けれど、アルタイイルもベガセオーラも恋焦がれる相手の肖像画を胸に抱き、小さな幸せを噛み締めていました。想い、想われていると実感出来ていた時間です。
けれども、密かな恋人同士を余所に、争いは激化していきました────……
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