「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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ーーーーーーー 同刻。 機械音と共に、静かに第2図書館の戸が開く。 中に入ってきたのは、灰色の瞳が印象的な生徒。 長い足を動かし、ゆっくりと戸をくぐる。 その瞳が、左右を見回し、ある一点で止まった。 そこはこの場所のトップに立つものの場所。 座り心地の良さそうなソファ、並べられたティーセット。 それらに囲まれ、静かに眠るお姫様。 まるで死んでいるか眠っているか区別がつかないほどの小さな寝息。 日焼けを知らない白い肌が、長い睫毛をさらに長く見せる。 カウンターの前で立ち止まり、中の様子を一瞥した男はゆっくりと目を細めた。 「尊」 低く厳粛な声が広い図書館に響く。 そのまま長い指が、傾けられたことによって頬にかかった髪を一房耳にかけた。 「ん……」 触れる手に擽ったそうに擦り寄られる感覚に、生徒の口元が緩み小さく開く。 「……先に行ってる」 告げられた言葉は空気に溶けて。 ズボンのポケットから取り出したあるものをカウンターにおき、僅かに甘さを含んだ瞳は、緩やかに閉じられた。 その後何事もなかったかのように開かれたその瞳には無機質な色が映しだされる。 そのまま無言で去る生徒を引き止めるものはいない。 そうして静かに戸は閉じられた。
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