「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「あー………面倒くさい」 優美とはかけ離れた仕草で髪を掻きあげる。 脳裏にちらつくのは厳格という言葉を体現したような祖父の姿。 自分の性質が、厳格からかけ離れたところに位置しているという自覚があるだけに、昔から不思議なことが一つ。 「なーんで、俺のこと気に入ってんのかな。あの爺様は」 昔から他人に厳しく自分にも厳しい、祖父が最も気に入りそうな人種の兄よりも、怠惰で適当な俺の方に熱心に祖父は教育を施した。 あまりにも厳しい指導に最初は嫌われているのかと半ば納得していたが、周囲からしてみると心底甘いらしい。 まぁ、そんなことをしても性格が矯正されるはずもなく、今に至るわけだが。 髪だって、外面の笑みだって、全部爺様の指示だし。 あの人は、俺をどうしたいんだ。 内心で愚痴をこぼしながら、離れにある一室の前で足を止める。 今から対峙する人、対峙することが憂鬱だ。 襖の前で一度目を閉じ深呼吸。 毎度の事だ、億するな。
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