「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「お祖父様。尊です」 「…入りなさい」 ゆっくりと襖を開く。 広い部屋の中央に2つの座布団。 その一つに座り、何かに集中するように目を閉じる姿。 相変わらずのようだ。 「只今帰りました」 「よく帰った。………尊、修行が足りんぞ。前帰ったときよりも、貧弱になっている」 自然と眉を寄せ、瞳を閉じる。 何枚か重ねて着たはずなのに、なんでバレるんだ。 「申し訳ありません」 「そんなことでは四家の方々にお使えできんぞ。緋扇の役目は分かっているな」 緋扇の役目、ね。 脳裏に四人の影がちらつく。 だんだんと一人減り、二人減り、三人減り。 残った一人の顔を思い浮かべ、自然と肩の力が抜けた。 「はい、お祖父様」 従順な返答にも、目の前の人物は顔色を変えない。 変わることのない無表情。 この話をしているときだけは、お互いがお互いに奥底の感情を見せない。 昔からそうなのだ。 爺様は終始無表情だし、俺は機械的に返事をするのみ。 そこに揺れ動く感情はない。
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