「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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その様子を見て、わずかに眉をひそめた爺様が告げる。 「精進しなさい。お前の望みのためにもな」 その言葉に、無意識に手に力がこもるのを感じた。 あなたが、それを言うのか。 「えぇ。承知しております」 すべてを隠すように微笑み頭を垂れる。 「ならば良い。下がりなさい」 「はい、失礼いたします」 襖を後ろ手に閉め、深いため息をついた。 あー疲れた。やっと終わった。 顔を上げた先に広がる日本庭園。 外の空気が吸いたくて、庭に降り、鯉の泳ぐ池を見下ろす。 「あー………」 池に映る自分の顔が、思いの他歪んでいた。 「笑え」 毎年、毎回同じことを繰り返す。 それは暗示にも洗脳にも近い。 「笑え」 ニッコリと池に映る顔が微笑んだ。 それを内心無表情で見つめる。 「……よし」 踵を返し、再度屋敷の中へ。 次は父さんの部屋か。
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