1284人が本棚に入れています
本棚に追加
小さな頃から歩きなれた屋敷内。
その中でも何度も何度も出入りしていたのが父の部屋だった。
目を瞑ってでもたどり着くその部屋には、暖かな空気が漂う。
「父様、尊です」
「入っておいで」
穏やかな声、穏やかな空気。
陽だまりを体現したような人。
それが俺が抱く父の印象だった。
ゆっくりと中へと足を進める。
こちらを見る優しげな目元に、自らの目元も緩むのがわかった。
「只今帰りました」
向かい合うように座布団に腰掛け告げる。
「よく帰ったね、おかえり」
その一言で、先程の凍てついた心が溶かされるようで。
緩く笑った俺を見て、仕方がなさそうに父さんも笑う姿にまた笑みが漏れる。
「お祖父様に、何言われたんだい?」
形式的な挨拶が終わり、少し姿勢を崩した父さんに習い、こちらも気を抜いた。
「いつものことだよ。緋扇のあり方について」
毎度毎度確認するように同じ話をされる。
分かっていると告げたこともあったが、分かっていないと押し通されるのだ。
心底面倒くさい。
最初のコメントを投稿しよう!