「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「お祖父様は、尊のことが本当にかわいいんだよ」 「俺には分かんねぇよ…。でも父さん達がそう言うなら、そう、なんだと思う」 俺に対する態度には甘さなど一欠片も感じないが、それさえも甘いと評するこの人たちに、爺様はどんな教育を施したのか。 「尊、おいで」 「ん」 不貞腐れる俺を見てやさしげに笑った父さんに導かれるまま、近くに寄る。 「わっ………っ」 俺と同じ小柄な体型ながら、強い力で引き寄せられる。 見た目にそぐわない大きな力。 これは緋扇の遺伝子らしい。 「俺、もう高校生なんだけど?」 一瞬のうちに父さんの膝の上へと座らされ、羞恥で頬が熱くなる。 しかしながら有無を言わさない腕力と、心底安心する香りに包まれて。 観念して、もがいていた力を抜いた。 腹回りに回っていた腕はいつの間にか頭に置かれ、撫でられる。 「最近は親子の触れ合いもなかっただろう?たまには父親らしい事もさせておくれ」 頭上からクスクスと笑う声。 もたれようと崩れることのない体幹に甘え、体を後ろへ倒した。 「父さん、髪結って」 頭を後ろに倒し、下から見上げる。 細められた父さんの瞳はどこまでも穏やかで、ゆっくりと近づいてくる大きな手に頬をすり寄せた。
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