「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「そういえば」 「んー?」 緩く髪を引かれる感覚に、眠気を感じながら返事をする。 「尊の気が抜けるから、お祖父様には直前まで言わないように言われてたんだけどね」 爺様がそこまで言うとは、俺がよほど喜ぶことか、よほど嫌がることか。 「嫌なことなら直前にして」 振り向きかけていた顔を正面に戻す。 きっと碌な事じゃない。 盛大に歪んだ顔を見て苦笑を零した父さんは、次の瞬間はひどく楽しげに口を開いた。 「じゃあ今言うよ。四家のご子息が明日いらっしゃるからおもてなしするように」 「………え、」 固まった俺を置いてけぼりに、父さんは結い紐を結び終え、垂れる長い髪を梳く。 「来られるのは菖蒲のご長男だよ。良かったね、尊」 その言葉に、自然と目が見開かれるのがわかった。 そう、か。 だから。 脳裏に映るのは、昨晩眺めた紫。 "いい知らせ"はこの事か。 「……あぁ。持て成しは、任せて」 あいつが来る。一緒にいられる。 それだけで、たまらなく溢れるこの気持ちは。
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