「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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ーーーーーーー その日の夜。 懐かしい夢を見た。 それは俺と同じ立場、同じ道を歩む人の教え。 家の歴史を刻む記憶。 俺の考え方を、体を、心を。 根底を作る始まりの記憶。 『我が緋扇家は、代々四家の家に使える家系。蓮、菖蒲、菊、椿。この中からお使えするご当主を見つけ、生涯尽くす。それが、緋扇家次男のお前の勤めだと忘れるな』 『はい、叔父さま』 『お使えするご当主に恥をかかせぬよう、お前は勉学も武芸も、精神力も磨かなければならない。これは代々我々が通ってきた道だ。お前には今のうちから稽古に励んでもらうぞ』 『はい』 『……尊、お前はきっと強くなる。それがわかっているから、お祖父様や、今のご当主様たちの期待は重くのしかかるだろう。辛くなったらいつでもいいなさい』 『うん……わかった、静流おじさん』 父の弟。緋扇の次男。椿の家に仕える人。 今も色濃く夢に見るこの人に、名前をつけようと思えばいくらでもつけられるが。 あえて俺の言葉で表すとするならば。 ーーー俺の師匠。俺を導く人。 『静流おじさん。俺、ちゃんと決めるよ』 仕えたい人。生涯を捧げる人。 一生を共にする人を。
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