「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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♢ その日、家の中の空気が、家人が、使用人が、少しだけ慌ただしく動いていた。 「尊様、まもなく菖蒲様がいらっしゃいます」 「えぇ、承知しました。ありがとうございます」 襖の先から声をかけられ、顔を上げる。 天気は快晴。 暖かな陽の光が部屋に降り注ぎ、うっかり眠ってしまいそうになる。 「さて」 腰を上げ、掛けておいた羽織を身につける。 チリン、と顔の横で鈴が揺れた。 父さんにもなかなかに好評だった、生徒会の面々から貰った結い紐。 あいつは、気に入ってくれるだろうか。 ふと見上げた壁掛けの時計が指し示す時間は11時前。 「行くか」 心なしか早足になりながら、待ち人がやってくるであろう玄関へと足を進めた。
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