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その日、家の中の空気が、家人が、使用人が、少しだけ慌ただしく動いていた。
「尊様、まもなく菖蒲様がいらっしゃいます」
「えぇ、承知しました。ありがとうございます」
襖の先から声をかけられ、顔を上げる。
天気は快晴。
暖かな陽の光が部屋に降り注ぎ、うっかり眠ってしまいそうになる。
「さて」
腰を上げ、掛けておいた羽織を身につける。
チリン、と顔の横で鈴が揺れた。
父さんにもなかなかに好評だった、生徒会の面々から貰った結い紐。
あいつは、気に入ってくれるだろうか。
ふと見上げた壁掛けの時計が指し示す時間は11時前。
「行くか」
心なしか早足になりながら、待ち人がやってくるであろう玄関へと足を進めた。
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