「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「おかえりなさいませ」 「「おかえりなさいませ」」 入ってくる高級車の周りに立ち、一家総出で出迎える。 その様子は、さながらどこかの任侠映画で見たような光景だ。 「みな出迎えありがとう、久しいな」 「よくいらっしゃいました。どうぞごゆるりとお寛ぎください」 車からまず降りてきたのは、美形の二文字が未だに損なわれない、厳しそうな印象を持たせる菖蒲の現当主。 ぐるりとこちらを一瞥し、労わりの言葉を口にするあたりがやり手だな。 使用人たちの評価も軒並み高いお方なだけはある。 「お久しぶりです。しばらく世話になります」 続いて降りてきたのは、当主によく似た年若い男。 「雪兎様も、ようこそいらっしゃいました」 祖父と母方の系譜らしい灰色の瞳と同じ色の髪。 表情は硬いが柔らかく細められる瞳が、現当主よりも幾分か柔らかい印象を与える。 「尊、こちらへ」 「はい、お祖父様」 名前を呼ばれ、皆の視線が集まるが、いつものことなので、気にも止めずに歩みを進める。 数歩歩いた先、菖蒲の当主の前で頭を垂れた。
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