「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「お久しゅうございます。真白様、雪兎様。ご滞在中はどうぞごゆるりとお過ごしいただけますよう、我ら緋扇に何なりとお申し付けくださいませ」 顔を上げ、にっこり笑う。 相変わらず表情の変わらない親子だ。 しかしその裏には、人の上に立つ者の素質を秘めていることを知っている。 故に、様々なものを含んだ笑みは、ご当主様たちには丸わかりのようで。 「久しいな、尊。相変わらず、自己を磨いているようで何より。しばらくは倅が世話になる」 「…よろしく頼む」 先ほどまで硬かった表情がゆっくりと溶けていく様子に、控えていた使用人たちの顔がうっとりと緩むのを見た。 揃いも揃ってこういうところがずるいんだよなぁ。 目の前の御仁には上手を取られたし、その子息は全てをわかって微笑まれた。 皆が浮き足立っていることを肌で感じる。 こうなって仕舞えば、負けだ、負け。
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