「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

25/55
前へ
/183ページ
次へ
♢ 「では、本日はこちらでお休みくださいませ。何かございましたら私は隣の部屋におりますので、なんなりと」 すっかり空が赤らみ、シンプルだが質の良い調度品たちが飾る和室を照らす。 勝手知ったるというように、お寛ぎいただいた真白様がお帰りになり、お祖父様や父様とも別れた俺は、来客用の客間に今回の主人を案内していた。 「尊」 部屋の中に入る後ろ姿を眺め、自らも隣の自室へ戻ろうと声をかけると、硬い声に呼び止められた。 「はい?」 振り向くと、何かいいだけな顔が映る。 「みこと」 ゆっくりと甘えるように俺の名を呼ぶ声に、目元が緩むのを感じた。 本当に、この人は。 「ーーーあぁ、ゆき」 一歩。また一歩と近づいて。 ぽすり。 逞しい肩に額を乗せる。 そのまま広い手のひらに髪を撫でられる感覚に身を委ね、静かに目を閉じた。
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1284人が本棚に入れています
本棚に追加