「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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暖かな温もりに包まれて、どのくらい経ったのか。 ずるずると壁にもたれるように2人とも座り込んで、無限にも似た感覚の時を過ごす。 「ゆき」 「…何だ」 「俺さ、お前といるとダメになりそう」 ゆるりと瞳を閉じて、肩に額を擦り付ける。 この数刻で、こんなにも満たされて。 同時にこんなにも感情が揺れ動いてしまう。 これじゃあ、完璧な従者には程遠いな。 「…何が悪い」 たった一言の返答。しかし、そこには様々な意味が含まれていることを知っている。 「ふふっ…俺もお前も、もう少しがんばらねぇとな」 手を伸ばし、灰色のサラサラな髪を撫ぜる。 くすぐったかったのか俺の首元に頭を擦り付ける雪を見て、頬が緩んだ。 「みこと。……離れていくなよ」 告げられた言葉に微かな笑い声を返す。 明確な返事をしない俺に焦れたのか、首元から顔を上げた雪は不機嫌そうにこちらを見た。
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