「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「おい」 寄せられた眉間を人差し指でほぐす。 「皺寄せてっと癖になるぞ」 ニヤニヤと笑いながら手を止めない俺に、さらに顔を顰めた雪は無理矢理俺の手首を握り壁に押し付けた。 「みこと」 真っ直ぐにこちらを見つめる瞳。 その中に宿る揺るがぬ色に、どうしようも無く心臓が跳ねる。 この目が、ダメだ。 その色が、その顔が、その心が。 俺をどうしようも無くさせて、負けを認めざるを得なくなる。 「俺は、お前が1番だよ」 「………で?」 …やっぱり満足しないよなぁ。 依然として真っ直ぐにこちらを見つめる瞳を見つめ返す。 昔からこういう事だけは圧倒的に心が狭いなぁ、こいつは。 昔から雪は他の人間と親しくするのを極端に嫌う。 一種の依存に近いんだと思う。 「俺は立場上、卒業するまでは一人に絞れない。それはわかるな?」 「………」 あからさまに不機嫌な顔から舌打ちが漏れる。 素直でよろしい。 「それに真白様の言いつけで、お前と深く関わることもできない。それが、お前を選ぶための条件だからだ」 何年も前、雪と二人でご当主様達の前で誓ったあの言葉に変わりはない。 そして、双方その誓いは変わっていないと信じている。 「雪、お前は一人で何だってできるけど、いつも近くに俺がいる事を忘れるな。お前が俺を頼ってくれる限り、俺はいつまでも、お前と共に」 微笑んで告げた言葉に、泣き出しそうになった雪の顔を見て、目を細めた。
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