「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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その日の夜 間接照明のみを付けた、薄暗い部屋に二つの人影が踊る。 寝間着に着替えた雪に温かいお茶を持たせ、俺は寝床の用意。 「うまいか?」 「ん」 ちびちびと俺の淹れた茶を口に運ぶ姿に笑みが溢れた。 寝床の用意を済ませ、座椅子に腰掛けたその背に回り込み、灰色の髪を丁寧に櫛で梳く。 おー…相変わらずさらっさら。 「尊、座れ」 「ん?」 湯呑みを台に置き、振り返りもせずに櫛を盗っていった手を見送る。 相変わらず、悟らせない動きに羨ましさを感じつつ、素直に雪の隣に座った。 「伸びたな」 「毛先は切ってるぞ。定期的に」 畳にそのまま座ったため、もう少しで床につきそうな髪を一房持ち上げる。 うん、枝毛は無い。 いっそバッサリと切ってしまいたいが、何せ隣に座る男と爺様が許してくれない。 将来禿げたら、こいつの髪を何百本かむしってやろう。長髪は禿げやすいって聞くし、責任取れって言えば…うん。
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