「退屈だな」

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「痛い痛い痛い!」 左頬に鈍い痛みが走る。 容赦なく俺の左頬を摘まみあげている、相手の右手を叩くがピクリとも動かない。 しばらく格闘を続け、痛みに涙が滲んだところで、ようやく解放された。 「何なんだよ全く!まだ痛いっ」 痛みを和らげようと頬をさすりながら、睨みあげる。 目尻に溜まった涙がボロボロと落ちた。 それを見てか、再度手が伸びてきたため反射的に身構えるも、その手はゆっくりとこぼれた涙を拭うだけだった。 「時間、忘れるんじゃねーよ。馬鹿」 「………。」 呟くように落とされた言葉に、沈黙を返す。 確かにあのままだったら、読み終わるまで際限なく続けていただろう。 「悪かったよ。本当は迎えにきてくれたんだろ?」 先に歩き始めた背中に向かって一言。 歩みは止まらないが、一歩一歩がゆっくりとした動きになったのがわかった。 それだけで、真意を知るには十分で。 駆け足でその背中に追いつく。 心地よい無言のまま、ゆっくりと2人並んで寮へと歩みを進めた。
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