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その状態のままどのくらい時間が経ったか。
実際には数分にも満たない状態だが、数十分、数時間とそうしていた錯覚に陥る。
「……本当に、なにもねーよ。ただ俺は、お前が笑ってる姿が好きだと思っただけ」
先に口を開いたのはこちらだった。少しだけ抑えた声。自然に力が入る眉。観念したとも言う。
せめてもの抵抗で、絡ませていた灰から一度切り離すように目を閉じる。
「笑う…?」
そうして作った真っ暗な世界の中で、微かな声が聞こえた。
言われた事がよくわからないとでも言いたげな、不思議そうな、驚いたような声。
次に目を開いた時には一歩分の距離ができていた。
先程の名残を追うように、斜め上の灰を見る。
そうして視線を上げた先に見えたものに、今度はこちらが目を見張る番だった。
珍しく崩れた表情は幼さを宿し、わずかに首を傾げる姿は普段の厳しい印象を塗りかえる。
普段絶対に見せることのない姿。こいつの色々な表情を見られるのは、俺の特権だし、この上なく嬉しい。
なのにーーーー。
「ーーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」
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