「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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2人とも結び終わり、さて露店に向かおうと長い階段をひたすら降りる。 「さっきの…お前はどうだったんだ」 「はい?」 突然の質問に頭がなんのことだか弾き出すまで時間がかかる。 「神籤。俺のは見たろ」 あぁ、さっきの御神籤の結果か。 そういえば雪には何も言ってなかったな。 「私は凶でした。結構散々書かれていましたよ」 「…そうか」 こちらに残していた視線をまっすぐ前に向け、変わらぬスピードで降りていく雪の後ろ姿を眺める。 お前はどんな悪いことが書いてあったんだ、とは聞けなかった。 あの御神籤を眺める顔には見覚えがあったから。 昔、俺があいつに殴られた時。あん時に近い顔してたな。 起きてほしくない事が起こってしまった時の、絶望と怒りと苦しみを混ぜ込んだような顔。 それは、漠然と。 今後自らの身の振り方一つで、またあいつにあの顔をさせてしまう気がした。 あの時の後悔と痛みは忘れない。忘れてはいけない。 まぁそれは、今後とも気を抜かず行動するとして。 「でも……アレは、本当になると厄介だな」 小さくつぶやいた言葉は誰にも届かない。 ただ、それは転がる石のように。確かな予感だけを感じていた。
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