「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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♢ 「誕生パーティー?」 近くの祭りの露店で店主から泣が入るまでたらふく買い食いをした帰り。ご機嫌で家の門を潜るなり執事から渡された招待状を2人して覗き込んだ。 「この時期だと綾小路家の御令嬢か、柊家の御子息でしょうか?」 「…柊だな」 くるりと封筒を反転させた雪が言う。そこには柊の家紋がプリントされており、中の手紙にもそれは同様だった。 「柊というと、最近は旅館営業の方も順調らしいですね」 「あぁ。何度か利用したことはある」 「温泉が有名だったはず…入られましたか?」 「朝だけな」 絶景が独り占めできると予約殺到中の宿だぞ、もったいない。 あまりにも無感動に話す雪をなんとも言えない気持ちで見つめ、改めて招待状を見た。 特に特殊なところは無い普通の招待状である。 あれ、でも。 「開催はこちらなんですね」 「山奥からわざわざ来るのか」 旅館や、柊の本家がある県ではなく、こちらの有名ホテルで開催すると書かれてある。 毎年出向くのはこちら側だったが、どういう心境の変化だろうか。 「まぁ、こちらなら移動の日数も考えなくていいですし、良かったです」 「………あぁ」 「…行きたくなさそうですね」 さっきから受け答えが疎かになっている雪にじっとり視線をよこし、しかしまあ仕方ないかと苦笑を溢す。 パーティー嫌いは相変わらずのようだ。 「今回は、私にも招待状が来ております。命じて頂ければ私はいつでも雪兎様のお側に」 その言葉にひどく満足気に目元を緩めた雪兎は、一言呟き歩き出した。 「離れるな」 「御意」 その背を追って、こちらも囁くように告げる。 さぁ、準備を始めよう。
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