「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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♢ 煌びやかな照明。賑わう人波。豪華な食事。 さすが現在人気沸騰中の老舗旅館の跡取りの誕生日パーティーなだけあって、設備も食事も一流だ。 着飾った紳士淑女が談笑しあう中、痛いほどの視線が突き刺さる。 その視線にさえ慣れてしまったのは、我が主人が殊更目を引く存在だからである。 菖蒲家の跡取りというだけでなく、容姿も、纏うオーラさえも洗練されており、人々を魅了するのだ。 俺は斜め前を歩く主人を見上げ、1人満足気に頷いた。 うん、完璧。雪が1番かっこいい。 小規模といえども社交の場。髪の毛から爪先まで磨き上げた甲斐があった。 さて、とりあえずは主催者に挨拶して、あのご馳走に舌鼓を打とうと視線を巡らせると。 にこにこと人好きのする笑みを浮かべ、早足でこちらに駆け寄る男性の姿が見えた。 「菖蒲様ではありませんか!ようこそいらっしゃいました」 「ご無沙汰しております。この度はご招待有難うございました」 「いやいや!こちらこそ。出席の返事をいただいた時は、倅よりも私の方が興奮してしまいましたよ」 キラキラと輝く瞳で雪に話しかけたこのお方こそ、今回の主催者である柊家の当主様。 とても高校生を息子に持つとは思えない若々しさと快活な表情。 …柴犬みたいなんだよな、この人。
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