「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「そちらの宿には何度かお邪魔させていただきました。素晴らしい宿の跡継ぎである御子息には今後もお世話になるかと思いますので」 「今後ともぜひ、よろしくお願いします」 楽し気に話が進む中、ふと雪兎から視線が外れこちらに視線が刺さった。 「緋扇様も、お久しぶりですね!またお会いできて嬉しく思います」 「こちらこそ、ご招待いただき嬉しい限りです。本日はおめでとうございます」 幼い頃に一度会った俺の顔を覚えているとは。結構侮れない。 「お二人に息子の勇士をご紹介いたします。ほら、挨拶なさい」 柊の当主に背を押される形で、こちらに歩み寄る影が一つ。 先ほどから雪に目もくれず、ずっと俺の方を凝視してきていたから気になってはいたが。 「はじめまして。柊 勇士と申します。この度はご出席いただきありがとうございます」 俺たちと同様に和服で身を包み、朗らかに笑う姿は好青年という言葉がよく似合う。 「菖蒲 雪兎と申します。本日はおめでとうございます。」 「緋扇 尊と申します。本日はおめでとうございます」 「ありがとうございます。お2人にお越しいただき光栄です!」 その後もなんてことのない会話を繰り返すが、俺を見る目が雪に向ける目と確かに違うことには気がついていた。 表面上はにこやかに話しながらも、相手の腹の中を探り合う。この場はそういうところだ。
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