「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「 あ、あの。緋扇様!」 「はい?」 ふと会話が途切れたタイミングで、話しかけられた。 どこかソワソワ?モジモジ?した様子で仕切りに袖を弄る姿に首を傾げる。 さっきと様子が違うけど何があったのか? 少しの間俯いていた柊の御令息は不意に何かを決意する様に顔を上げた。大きく息を吸い込む音がして、何を言うのかと内心身構える。 「あの、っ…ファンです!!」 「へ…?」 ぎゅっと目を瞑りそう告げた声は、思いの外会場中に響き渡っていた。 俺も、隣の雪も何が起こったのか把握しきれず、瞬きを繰り返す。 唯一彼の父親だけは平和そうな顔で良かったなあと笑っていた。強い。 「一昨年の弓道の試合拝見しました!洗練られた雰囲気と確かな技術に感動いたしました!ファンです!!」 会場をこちらにしたのも、もしかしたら緋扇様がご出席いただける可能性が上がるのではという下心がありました! そう馬鹿正直に話す彼の背中に、はちきれんばかりに振られる尻尾の幻覚を見た。 ま、豆柴が、豆柴がここにいる…! 一度そう認識してしまうと、ずっとキラキラした目で見られていた気がする。 うちの学園でもあまり見たことのない類の視線だったからわからなかった。学園の空気に完全に毒されている事実に悲しくなった。 「ありがとうございます。そんなに前から応援いただいていたのですね。これからも頑張ります」 子柴犬の手を取りにこりと微笑む。首まで真っ赤になった彼は「さ、さわっ……もう手が洗えないいいい」と言って目を回していた。 その様子をじっとり雪に睨まれつつ、その後も恙無くパーティーは進行していく。
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