「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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そう飲み物を片手に談笑していた時。 ざわっ 会場中がざわめいた。入ってこられた方々を見て皆一様に声をあげる。 誰がこられたのだろう? 好奇心に負け、数歩前進してその人物が見える位置に立つ。人影の隙間から覗き込んだその先。 「………っ!」 息を呑んだ。 灰色の髪と瞳。研ぎ澄まされた雰囲気。美しく整った顔立ち。 その全てが私の心を射抜き、掴み、震わせる。 あぁ…、これは、これはきっと。 「…お姉様、彼の方はどなたですの?」 右隣に立っていたお姉様を見上げる。 どこか恍惚とした表情のお姉様は、瞬時に表情を戻してにこやかに笑った。 「京子は知らなかったのね。あの方々は、菖蒲雪兎様と緋扇尊様よ」 「菖蒲 雪兎様…。緋扇 尊、様…?」 心から離れないお方の名前を確かめるように呟く。遅れて、教えられた名が1人分ではないことに気がついた。 この社交の場で家族でもなく連れ立つ理由は限られる。 友人か、侍従か、恋人か。 慌ててまた彼の方の方を見る。 先ほどは気がつかなかったが、隣に立つ幾分か小さい人影。 人並みの隙間から見えたお姿に、彼の方を見た時と同様の衝撃が走った。 「きれい………」
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