「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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「あの、っ…ファンです!!」 不意に会場中にその声が響く。 声のした方に皆顔を向けると、そこには本日の主役の御子息と、彼の方達が立っていた。 御子息に先程までの落ち着いた様子はなく、どこか恍惚とした表情で一点だけを見つめている。 その視線の先には、美しい夜色の君。 隣に並ぶ彼の方と顔を見合わせ、困った様に微笑むその御姿さえも絵になった。 そうして、何度か会話をされた後。 ざわり。鳥肌が立つ。 空気が変わった気がした。 白魚のごときしなやかな手が触れて、そのうっすらと赤い唇から言葉が紡がれるたび、御子息の体が朱に染まっていく。 時間が止まった様な錯覚に陥るほど濃密な時間。 実際は数分足らずで終わってしまったのが信じられないほどに、その空間に呑まれていた。 皆が件のお二人に夢中になる中、私は、見てしまった。 触れる手と手を、赤く頬を染める柊の御子息を、美しく笑う夜色の君を、嫉妬の色を強めた目で鋭く睨みつける彼の方を。
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