「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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楽しげに話が進む中、お姉様の声が聞こえた途端、伏し目がちだった夜色の瞳が不意にこちらを捉えた。 相変わらず綺麗な微笑みを讃えるその唇が動く。 「こんなに綺麗なお嬢様に見ていただけているとは光栄です。これからも精進いたします」 あれーーー? やっぱり…。少し、低い? 女性にしてはハスキーな、少年を感じさせる様なお声。 それに、先ほど聞いた如月学園は、確か男子校だったはず。 ということは、 「え?」 思い至った事実に唖然と声を上げる。 「京子は初めてだったわよね。菖蒲様、緋扇様、妹の京子です」 「あっ…黒崎 京子と申します。お会いできて光栄ですわ」 お姉様に背を押され、我に返った。 先程の独り言は聞かれていなかったようでホッとする。 そうして今日のパーティーの最初に粗相はしないよう言われていたことも思い出した。 私ったら、考え事をしている場合ではないわね。 「菖蒲 雪兎です。どうぞよろしく」 「初めまして、緋扇 尊と申します。以後よしなに」 ゆるりと微笑を讃えた挨拶にピシリと固まる。 同時に全身が茹だるように暑くなった。 何これ、なにこれ。こんなの、知らない。 ああ、これが。 やはりこれが一目惚れというものなのだろう。 「よろしく、お願いいたします」 ようやく絞り出した声は、小さく震えていた。
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