「ーーー気がつかなかったのか、自分が笑っていた事にも」

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ぼんやりと足を動かし、お二人の元を去る。 お似合いだった彼の方々。 だけれどお二人とも男性ならば。 私にも希望はあるだろうか。 私のこの胸の中で灯る灯火は、消えることなく燃えるだろうか。 最後に一目見ようと振り返ると、不意に、夜色の長い髪が靡き、同じ色の瞳が私を射抜く。 「…………っ」 その瞳はどこまでも澄んだ夜。 しかしその奥に確かな警戒と不信感があった。 緩やかに微笑むその顔が、無条件に恐ろしく感じる。 得体の知れない何かに絡みとられるような。 近づくと壊されてしまうような恐ろしい感覚。 どうやら私は、好きになってはいけない方を好きになってしまったらしい。 「…釘を刺されてしまったわ」 ぽそりと呟く。 「あら、何か言った?」 相変わらずに"あの怖いお方"に見惚れていたお姉様が聞き返してくるが、小さく首を振った。 「お姉様、如月学園にお邪魔できる機会ってあるのかしら」 「そうねえ、きっと文化祭は一般公開していたはずよ」 「私、お父様にお願いしてみるわ!お姉様一緒にいきましょう?」 いくら私が彼の方に相応しくなくとも。 私の心の灯火が消えるまでは諦めない。諦められない。
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