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その日の夜ーーーー
コンコンと小さく響く音に、開いた本へと視線を落としていた人物が顔を上げた。
「入れ」
本に栞を挟み、扉に目を向ける。
「失礼します」
静かに戸を開き、こちらに歩み寄る訪問者に物応じした様子はない。
ぼんやりとその姿を眺めながら「昔はもっと緊張していたはずなのに」と残念に思い頬杖をついた。
「お呼びでしょうか」
「あぁ」
行儀が悪いと言いたげな硬い声に相変わらずだと口元を緩める。
絶えず笑みを浮かべるその唇が、何かあった時だけ少し歪むその癖を知っている者は少ない。
「今週の土日。開けておけ」
端的に口にした"命令"に、伏せ目がちだった瞳がパチパチと瞬く。
しかしすぐに柔らかく細められ、ゆっくりと閉じられた。
「仰せのままに」
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