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少しの焦りと葛藤が頭の中を占めていた時。
「―――あぁ。……こちらこそ」
いつもより少し硬い声に、チラリと視線を上げた。
パチリ。目が合う。
その瞬間、硬質な瞳が緩やかに溶けるのを見た。
あぁ、これは。
「―――。…では、私はこれで。失礼いたしますね」
思わず開きかけた口を一度閉じ、再度ニコリと笑い踵を返した。
立ち止まり待っていてくれていた棗に駆け寄る。
「いいのか?」
「あ?……あー、いいんだよ。これで」
眉間と口元に無意識に力が入っているのを感じる。
だって、ずるい。
バレてはいけない。分かっているのに。
駆け寄って、笑いかけて、言葉を紡いで。分かち合って。
そうしたくなる、この感情は―――。
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