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そうして数分間、緩やかな静寂が訪れる。
その静寂を切り裂き、先に口を開いたのは棗だった。
「……なにもされてねぇな」
呟くように落とされた声は、低く小さかったが、確かに耳に入ってきた。
外を眺めるために横に向けていた体はそのままに、視線だけを声の主に向ける。
こちらの返事を待つ視線は、ただただ真剣で真っ直ぐだ。
「…あぁ」
向けられた視線に驚き、反射的に体の位置をずらして向かい合う。
交わる視線。
いつからか表情を顔に出さなくなっていた男の瞳は、感情を露わにしていた初等部の頃のように、確かに熱を含んでいた。
「入学式の欠席で揶揄われただけだ。………心配かけたな。」
その熱を遮るように、静かに目を閉じ答える。
もう一度目を開けた時、視線は逸らされていて。
それなのに、密かに安堵してしまった。
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