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「なあ、棗」
安堵を覚えてしまったことの罪悪感か、何時もの雰囲気から外れてしまったことの焦燥感か。
胸に溜まっていくもやもやした気持ちを消し去りたくて。
視線を逸らし、未だにこちらを見ない棗に声をかけた。
「何だ」
無愛想な顔を隠すことなくこちらを見る棗に、困ったように言葉を返す。
「これからの予定は?」
「…特にない」
思ったよりも素直に返された返事と表情に、やっといつもの調子に戻ったと緩く微笑んだ。
そうして丁度良く図書館に設置されている大時計の音が鳴り響く。
時刻は11:00。
昼まであと一時間か。
座っていた椅子から立ち上がり、棗を見下ろしながら告げる。
「俺は今から"青の宮"に行くけど、お前はどうする?」
「"青の宮"……あぁ、あそこか。何しに行くんだよ」
大分久しぶりに訪れるらしく、棗も存在を忘れていたようだ。
そのようなところに行くという俺を訝しげに見上げるその顔に、ニッコリと笑みを返す。
「下見と昼寝」
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