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いったい誰だと足を止めると、向こう側の人物もこちらに気がついたのか振り返る。
窓から差し込む光に背を向けているため、逆光で見えづらいが。
その、人は。
「ゆっ……!」
反射的に名前を呼ぼうとして、咄嗟に口を噤む。
向こうもこちらに気がついたのか、警戒で細めていた灰色の眼光が緩んだ。
そうして徐々にこちらを見る眼差しが溶けていく。
その眼差しが、幼い頃にお互いが浮かべていたものと重なって。
どうしようもない懐かしさとともに、泣き出したいくらいの苦しさを与えていた。
あぁ、どうして、どうして。
どうしてこの時間、この場所なんだろう。
他の生徒がいなければ、どこかで見られる恐れがなければ、すぐにでも駆け寄れたのに。
目を伏せる俺の姿を見て、あちらも同じように苦しげに目を細めた。
「________」
呟く様な小さな声が聞こえて、目を開ける。
相手の顔に目を凝らすと、口元が小さく動いた。
"み こ と"
俺の名を紡ぐ動作に目を見開く。
嬉しさと、苦しさと、愛しさと。
色々な感情がぐちゃぐちゃになりながら、微笑んだ。
"_____、またな"
答える様に、相手の名前を呟いて。
下から聞こえるわずかな喧騒に気がつき、足早に別れを告げた。
そうして、足早に声の聞こえた方に足を向ける。
自身が向かうことで、上に生徒は向かわないだろう。
頭に浮かぶのは、こちらが返事をした後、再度緩んだ灰色の瞳。
それを見れれば、しばらくは大丈夫。
「あと、2年」
呟いた声は今度こそ誰にも聞かれることはない。
けれどもどこか満たされた心のまま、目前の生徒たちを見つけ、小さく微笑んだ。
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