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マイクを受け取ってから、こちらを見下ろし動く様子のない棗を呼んだ声は、静まり返った講堂に思いのほか響いた。
どうしたのだろうか。
こいつに限って緊張はないだろうし。
まさか、願い事がないとか。
それはあり得ると一人頷く。
どうなのだろうと顔を上げた時。
「…っ」
不意に伸ばされた手が、その長い指先が、耳を掠めた。
反射的に小さく肩をすくめる。
そのままするりと髪を撫で、上へ上へと登っていく手の感触。
不快感はないが、少しぞわぞわするその感覚を、無意識に目を瞑りやり過ごす。
そして。
するり。
紐が解けた様な音と、締め付けから解放され、重力に従いはらはらと肩に当たる髪。
生徒たちは堰を切ったように、歓声を上げ、目の前の男はなぜか満足そうにこちらを見下ろしていた。
状況についていけず、瞬きを何度か繰り返す。
なにを、されたのか。
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