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♢♢♢side(A)
人の疎らになった中庭を、朝比奈 蛍は脇目を振らずに歩いていた。
「朝比奈様っ」
「かっこいい…」
「今夜、お暇ですかっ」
いつもはにこやかに対応する他の生徒からの声援もこの時ばかりは気づかぬふりをして、足早にその場を去る。
その顔は、何かを耐える様に顰められており、その切羽詰まった様子を道行く生徒たちは不思議そうな顔をして見送っていた。
そうして。
特別教室棟の4階、第3音楽室。
普段から誰も使っていないその部屋は時折仲間たちと集まるのに使っていた場所だ。
荒々しく閉めた戸に沿ってズルズルと座り込んだ。
「……っあーーー」
組んだ腕に顔を埋め、何かを振り払う様に唸る。
そこから僅かに見える耳と首すじが、確かに赤い。
「……反則だろ」
「なーにがハンソクなのぉ?」
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