「あなたの笑顔が曇らぬように」

10/44

1281人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ
「……アイツと俺のは違うからね」 今まで閉ざされていた口が小さく開く。 ボソリと呟かれた声は聞き取りづらかったが、なるほど確かに、と歩は納得した。 抱いている憧憬が、 置かれた立場が、 秘めた感情が、 奥底に眠る畏怖が。 なるほど全く違うのか。 「そんなに思われて、幸せだねェ」 不意に口から出た言葉は、正しく本音だった。 呆けた様に、いっそ感心した様に溢れた言葉に、歩自身驚いていた。 その様子を捉え、困った様に蛍は目を細める。 果たして、これはどういう感情なのか自分でもわからない。 ただ名前を呼ばれて、視線が絡んで、言葉を交わしただけで。 たったそれだけなのに、自分の体は歓喜を伝えてくる。 そう、きっとあの時からだ。 あの目を見てしまってから、あの人を知ってしまってから、絡め取られた様に、身動きが取れない。
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1281人が本棚に入れています
本棚に追加