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「……アイツと俺のは違うからね」
今まで閉ざされていた口が小さく開く。
ボソリと呟かれた声は聞き取りづらかったが、なるほど確かに、と歩は納得した。
抱いている憧憬が、
置かれた立場が、
秘めた感情が、
奥底に眠る畏怖が。
なるほど全く違うのか。
「そんなに思われて、幸せだねェ」
不意に口から出た言葉は、正しく本音だった。
呆けた様に、いっそ感心した様に溢れた言葉に、歩自身驚いていた。
その様子を捉え、困った様に蛍は目を細める。
果たして、これはどういう感情なのか自分でもわからない。
ただ名前を呼ばれて、視線が絡んで、言葉を交わしただけで。
たったそれだけなのに、自分の体は歓喜を伝えてくる。
そう、きっとあの時からだ。
あの目を見てしまってから、あの人を知ってしまってから、絡め取られた様に、身動きが取れない。
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