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その様子をみて、苦笑いを浮かべながら、日向が口を開く。
「……みこちゃんが文月センパイと仲良しってことはみんな知ってたけど、新歓のあの時の。みこちゃんのあんな顔初めて見たから。あの2人も………俺らもヤキモチ妬いちゃったみたいだね〜」
「ヤキモチ……」
思いもよらない言葉が飛び出し、一瞬思考が固まる。
きっと今俺の顔は困惑の二文字が大きく描かれているだろう。
「じゃあ、みこちゃん、またね〜」
「え、えぇ。またおいでくださいませ」
重厚な扉が閉まり、この広い空間に俺1人になる。
「………え、ヤキモチ?」
✳︎✳︎✳︎
その日の夜。
部屋に戻ると、棗がダイニングテーブルに夕食を並べていた。
「棗、ただいま」
「あぁ、おか……」
いつもの無表情で、迎えてくれた棗だが、俺の姿を一瞥すると不自然に固まった。
そうして、無言でこちらに近づいてくる。
「棗?」
「……これ、どうした」
大きな手が伸びてきて、小さな鈴を鳴らす。
そのまま頬に手を添え、上を向かされた。
まっすぐな瞳が、こちらを射抜く。
「生徒会の皆から貰ったんだよ。なんか、俺には赤が似合うらしい」
「………」
なぜか無言のまま、その手は離され、リビングへ戻っていく棗の背中を見る。
「あいつ、なんであんな不機嫌なんだ?」
「………鈴つけられやがって」
それぞれで呟いた言葉は、お互いの耳には届かない。
なんとも言えない雰囲気のまま、夜は更けていった。
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