「あなたの笑顔が曇らぬように」

35/44
前へ
/183ページ
次へ
顔をうつむかせ、黙り込む姿は混乱しているようにも、怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える。 「以前お会いした時、私に対して思うところがあるご様子だったので、もしかして嫌われているかもと…。失礼いたしました、不快に思われましたか?」 安心させるように、なるべく柔らかく、ゆっくりと告げる。 「ちがっ………っ」 勢いよく顔を上げた表情は、迷子の子供のようだった。 「違いっ…ます。俺はっ」 伝えたいのに言葉が出ず、奥歯を噛みしめる。 されども言葉は出てこない。 そんな様子の朝比奈の強く握りしめられた手に触れた。 その瞬間ぴくりと反応し、驚いたような表情がこちらへ向けられるのに笑みを一つ返し、ゆっくりとその手を緩ませる。 「ゆっくりで大丈夫ですよ。ちゃんと聞きます」 ようやく開いた両手に怪我がないことを確認し、再度微笑んだ。
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1282人が本棚に入れています
本棚に追加