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ろくに会話もないまま五分が過ぎたその瞬間、死神は何の迷いもなく鎌を振り下ろしました。
しかし、その鎌は恋人を貫くことなく、なんと自分の胸を貫いたのです。
死神の恋人は呆然としていましたが、ようやく何が起こったのか気づくと、大粒の涙を流しました。
「なぜこんなことをしたのですか? 消滅するのは、掟を破った私でなければいけないのに。なぜ死ななくてもいいあなたが……っ」
死神の恋人は、鎌で貫かれた死神にすがり、大声で泣き叫びました。
掟を破って人間を助けた死神は決して許されることはありませんが、許される方法がただ一つありました。それは、恋人もしくは家族が掟を破った者の代わりに命を差し出すことです。
もちろん死神の恋人もそのルールは知っていましたが、死んでしまえば永遠に消滅してしまうのに、いくら恋人のためでもまさかそんなことをしないだろうと思っていました。というよりも、そんなことをしてほしくなかったのです。
「わざわざ人間を助けたお前のことは理解できないが、俺はそんなお前がずっと羨ましかった。俺に理解できないお前のことを……愛……して……」
最後まで言い終わる前に、死神は空気と混じり合い、やがて何もなくなってしまいました。
恋人を永遠に失った死神は、涙が枯れるまで泣き叫び、その涙は地上にまで降り注ぎました。
何日も何日も泣き続け、やがて流す涙もなくなった死神は、人間の命を刈りとる仕事に復帰することしました。
しかし、今までのように死の数日前から付き添うことはせず、人間の死の五分前に姿を見せるようにしたのです。
そして、決まってこう言いました。
「あなたの命が尽きるまで、あと五分。この世に思い残すことがないように、五分だけ猶予をあげましょう」
それは、かつての恋人と同じやり方でしたが、今までのように人間に感情移入しないようにそうすることにしたのです。
愛しい人に永遠に会えない世界など、生きていても意味がありません。死神は恋人の後を追おうかとも考えましたが、自分の代わりに命を失った恋人の覚悟を無駄にするようで出来ませんでした。
だからといって、恋人のいない世界で前向きに生きることも出来ません。
もうどうやって生きていけばいいのか分かりませんが、恋人に永遠に会えない世界で、その死神は今も答えを探し続けているのです。
鎌を持ち、恋人と同じように五分前に人間たちに死の宣告をし、人間の命を刈りとりながら。
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