著作権、私にありますから

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ノートを閉じた先輩は、いきなりボロボロと涙を流し始めた。 「こんな……悲しすぎるよ……っ。うう……っ、でもいい話だね……。 俺、この話をいつか演劇にして、みんなに知ってもらうためにがんばる、よ……。本田の遺志は必ず継ぐから……っ」 号泣しながら話す先輩にとりあえずティッシュを渡しておく。泣きながら話されても、何言ってるのか聞きとり辛いんですよ。 「何言ってるんですか。先輩は話を作る方じゃなくて、演じる方でしょ。 ていうか、遺志って何ですか、遺志って。 私、まだ死んでませんよ。勝手に殺さないでください」 「あ、う、うん……、それはもちろんそうだし、俺も死んでほしくないんだけど、でも、なんていうか……」 ブーンと思いきり鼻をかんでから、モゴモゴと何か言ってる先輩にテッシュを箱ごと渡す。一枚じゃ全然足りなさそうですし。 「まあ成功率5%なんで、死ぬ確率の方が高いですよね。でも、ゼロじゃないし、分からないじゃないですか。私まだ生きる気マンマンなんで、勝手なことしないでくださいよ。著作権、私にありますから」 「そ……、なんでそんな……、面会時間あと五分だった?」 「先輩が小説読むのにニ分、泣きながら鼻噛んでる間に一分過ぎたんで、あとニ分くらいじゃないですか?」 ベッドの近くにある時計を見ながら答えると、先輩はさらにオロオロし始めた。 「何でそんな落ち着いてるの? 本田は死ぬのが怖くないの? もし失敗したらって考えないの?」 笑えてくるくらいにネガティブなことを並べたてる先輩には、怒る気にもなれなかった。 こういう時は、嘘でも絶対大丈夫だからとか励ますものじゃないんですか? それ、明日手術を控えてる病人にかける言葉じゃないですよ? ま、そんな先輩だからこそ会いたかったんですけど。 「怖いですよ。怖いに決まってるじゃないですか。私には小説家になりたいっていう夢もあるのに、明日死ぬかもしれないなんてふざけんなって感じですよ。でも、……なんですかね。先輩が全部持っていってくれたんですよ」 「へ?」 「先輩って、いつもそうでしょ?  家族でさえ私のこと腫れ物みたいに扱うのに、先輩は自分のことみたいに泣いたり笑ったり悲しんだりしてくれますよね。 なんか人が緊張してると、自分は緊張できなくなったりするじゃないですか。そういう感じで、先輩が大げさに泣いたり不安がったりしてくれるので、私の死への不安も恐怖も先輩が全部持っていってくれたんですよ」 何が何だか分からないという感じできょとんとしている先輩に、くすりと笑みが勝手にこぼれる。
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