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「紗恵ちゃん、お湯沸いたぇ。どんくらいまで冷ますん?」
「エゲレスのお茶は沸騰したお湯をそのまま入れます。玉露とかとは違って、そっちの方が良い香りが出るんです」
紗恵は薬缶を受け取ると、急須に注いだ。
3分ほどして、ちょうど良い紅茶色になったのを確認して、湯呑みに注いだ。
(湯呑みで紅茶か~。それでも大英博物館で浮世絵柄の紙コップで紅茶を飲んだ時ほどの違和感はないな。あの時は一瞬自分が今いる国が分からなくなったわ)
「ほうじ茶みたいな色やね」
「そうですね。でも作り方は全然違うんです。日本のお茶は蒸したり炒ったりした茶葉を使います。でも、このエゲレスのお茶は茶葉を発酵させるんです。初めて味わう風味だと思いますよ」
「それは楽しみやわ」
紗恵がスコーンを、幾松が紅茶を載せたお盆を持って客間に向かった。
「お待たせしました」
「ん、いい香りがするね」
幾松が部屋に入ると、紅茶の香りが広がる。
「2種類の茶葉があったさかい、飲み比べしましょ」
先に幾松が卓に紅茶を置き、次に紗恵がスコーンを置いて畳に座った。
「これが、エゲレスのお菓子のイングリッシュスコーンです。エゲレスのお茶にとても合いますよ。食べながらお茶を飲んでください」
紗恵はそう言うと、真っ先に紅茶を口に運ぶ。
(ん~~、紅茶だぁ)
無意識のうちに頬が緩んでしまう。
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