大英帝国を語るために

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「エゲレスで食べた食事の中で、フィッシュアンドチップス美味しかったです」 井上は魚に箸を入れながら懐古する。 「他の食事はどうじゃったんだ?」 高杉は含蓄のありそうな井上の言葉に問う。 井上は嫌なことを思い出したというように表情を歪め、紗恵は苦笑した。 「…。エゲレス人は食事にあまり関心がないようでとても食べ難い料理ばかりでした。横浜に着いた日、米と味噌汁を食べて思わず涙が出そうになったほどです。日本の食事はこれほどまでに美味しかったのか、と」 「初めはエゲレスの食事に慣れていないせいかと思ってましたが、何年向こうで暮らそうとも食事だけは慣れないと思います。エゲレスの食事はですね、なんというか、味もですが見た目からして食べ難いのがいくつもあります」 伊藤はれっきとしたイギリス料理であるフィッシュアンドチップスを美味しそうに食べながら、井上に続いてイギリス料理を酷評する。 未来ではイギリス料理も大幅に改善されていて、世界的な評価は悪いものの美味しくなりつつあるが、この時代のイギリス料理は舌の肥えた日本人には到底食べられないような食事ばかりなのだ。
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