大英帝国を語るために

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伊藤は少し考える素振りを見せる。 「…。俺の酒癖はそれほど悪くないはずだ」 「ああ、そうじゃのぉ。女癖は悪いが酒癖はそれほど悪うはない」 高杉は肯定するが、フォローにはなっていない。 「その通りだ。だがこの間はいつになく悪酔いしていたな。まるでやけ酒のようだった。なにがあった?」 稔磨の問いに伊藤は箸を動かす手を止めた。 「俺らが何の為に留学を切り上げて急遽帰国したか分かるか?」 「欧米国との戦を阻止するためだろう?」 「その通りだ。4ヶ月ほど前、瓦版(新聞)で欧米国と長州の戦が近いことを知った。既に話した通り、日本とエゲレスの国力は天地以上の差がある。戦になったら確実に長州は滅びるだろう」 「その戦を指を咥えて見るわけにはいかぬ、そう思った次第で帰国したのです。そして帰藩してすぐに封鎖を解くよう藩庁に上申しました。しかし…」 井上はやるせなさを口調に滲ませる。 口ごもって途切れた言葉の続きは高杉が代弁した。 「封鎖は続行、戦の際には徹底抗戦の構え。そう返答されたか?」 「そうです。たとえ幾百の艦隊が押し寄せてきたとしても、戦が苛烈を極めても、長州武士は最後の一人になってなお戦う意気だ、と。長州は海軍が瓦解しているのに何ができるというのです。初めから勝てる目などないことなど分かりきっているではありませんか!このままでは冗談でなく長州は滅びかねない!!」
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