大英帝国を語るために

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「そもそも国力が天地以上もかけ離れているなら、抗戦する隙すら与えてもらえず制圧されるだろう。戦になっても存外早く片が付く気がする。…もちろん一定の犠牲は避けられないだろうが」 「では、本当に重要なのは戦自体ではなくその後の講話交渉ですね」 高杉と稔麿の戦になっても問題はないだろうという推測に、紗恵は新たな論点を追加する。 「…講話交渉など嫌な予感しかしない。あの上役どもが欧米国相手にまともな交渉ができるなど到底思えんのだが。ことごとく不利な要求を呑まされて、俺らの子孫にまで悪影響が出そうだ」 伊藤は少しばかりの諦念を孕んだ口調で応えた。 「だが、責任を負わないで済むよう、誰かを代理に立てる可能性もあるぞ。その代理に有能故目障りな者でも立てればもしかしたら上手く交渉が運ぶやもしれぬ」 (おっ、井上さん鋭い。まったくもってその通り!) 紗恵は井上の未来視でもしたかというくらいドンピシャの回答に感嘆する。 「その時の通詞(通訳)は伊藤か井上が務めることになるのじゃろうな。頑張れよ」 高杉はまるで他人事のように2人を応援した。 2か月後、自分がその渦中の中心に飛び込むことなど想像すらしていないのだろう。 紗恵は思わず苦笑した。 高杉が可哀想に思えて未来を伝えたくもなったが、桂と稔麿に固く禁じられているので心の中で応援するに留めておく。 紗恵の向かいでは、伊藤と井上がお互いに通詞役を押し付け合っているところだった。
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