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永別にしないために
7月に入って数日、この日は久坂と入江が進発上京の為に長州を発つ日だ。
稔麿と紗恵は2人のもとを訪れていた。
久坂が率いる舞台が集結している広場は緊迫した雰囲気だった。
会津や幕府への怒りを隠さず戦へ躍起した面持ちの者、反対に死地へ赴こうという沈んだ面持ちの者。
禁門の変は避けられないと改めて実感させられる状況だ。
結局池田屋事件が起こってから、紗恵が禁門の変に対して取れた対策は決して多くはない。
久坂と入江の戦死を阻止するだけの有効な手立てが取れた自信はなかった。
2人を死なせたくはない、そんな思いが紗恵の口を滑らせる。
「久坂さん、入江さん。どうしても行くのですか?今からでも…」
「紗恵、それは言っちゃダメだ」
「…すみません」
稔麿が険しい顔で紗恵の言葉を遮った。
紗恵が言おうとしてたことは久坂らの、武士の矜持に水を差すことに他ならない。
進発に反対と言えど彼らは覚悟を決めたのだ。
故郷の為に幕府に刀を向ける覚悟を。
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