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でも、だからこそ紗恵は2人に思い留まってほしかった。
武士の覚悟は侮れない。
彼らは大志の為に自らの命さえ利用してしまえるのだ。
思い留まらせることが矜持に水を差すことだと分かってはいても、今はその矜持が何よりも恐ろしい。
そもそも戦場においての生死など、遠いところからどうこうできるものではないのだ。
ならば初めから行かせないほうがいい。
それこそ大志の為に、決して命を落とさないような場所にいさせたい。
彼らの死は長州の多大な損失を意味するのだから。
「…どうか、ご武運を」
紗恵はかすれるような声で無事の帰還を望んだ。
当然、稔麿も久坂と入江の進発上京に反対だ。
2人は師を共にし、活動を共にし、苦楽を共にしてきた盟友だ。
失いたくはない。
でも稔麿自身武士であるから、覚悟を決めた彼らを引き留めるなど到底できることではない。
結局、上京準備の為に走り回る彼らを見守ることしかできないまま、出発の今日を迎えた。
「故郷のために、尽くしてこい」
「ああ、心配するな。必ずや長州の力を幕府に思い知らせてやる」
激励の言葉の裏に惜別の思いを込めて、稔磨は悲壮に溢れた表情で言った。
久坂は言外の思いを知ってか知らずか、盟友の不安を拭うように目に意志強い色を浮かべた。
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