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やがて進軍開始の刻が訪れる。
久坂・入江の指揮のもと隊列が組まれ、兵各々が武具を背負い、様々な決意を胸に一方向を見据える様は壮観であった。
紗恵と稔磨は見送りや見物人でできている人だかりに混じり、出陣を見送ることにした。
「我々はこれより京へ進軍する!池田屋で斃れた同志の無念を必ずや晴らし、我ら長州の力を日ノ本中に知らしめてくれようぞ!!いざ、出陣!」
「おおおー!!!!」
久坂の演説に応えるように、兵は片手をあげて鬨の声を上げる。
その声につられたのか、見物人の中で叫んでいる者も少なくない。
鬨がある程度収まったのを見計らって、久坂は先頭に立ち歩み出す。
久坂と入江が紗恵たちの近くを通り過ぎるとき、稔磨が久坂たちにしか聞こえないような小声で呟いた。
「死ぬなよ」
「ああ。稔磨もな」
また、2人も稔麿に聞こえるか聞こえないかと言うくらいの小声で答える。
表立って引き止めることも、無闇に生を望むこともできない武士たちの、不器用とも言える友情はたとえ場所を違えても切れることはない。
京と下関、幕府と欧米国、共に故郷を憂い、国の行く末を案じ、未来を見据えた盟友たちはそれぞれの戦場へ身を投じることになる。
その果てにあるのが哀しみにならないことを願うしかない。
紗恵は、もはや背中しか見えなくなった久坂と入江を見てひとつの覚悟を決めた。
(稔磨さん、ごめんなさい。私はただの傍観者でいるのは嫌なのです)
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